アイスボックス
子供の頃に住んでいた土地を大人になってから訪ねると、全てが箱庭のように狭く小さいことに、目眩に似た感覚を覚えることがある。
時を経て、身の廻りの道も建物も見違えるように立派になったのに、その場所だけが取り残されたわけではなく、小さかった自分にとって世界が大きく見えていたのだ。
郵便ポストやバスの吊革に背伸びしても届かなかった頃、とりわけ悔しい思いをしたのは雑貨屋の店先のアイスクリームボックスだ。
当時のアイスボックスは洗濯機を小振りにしたような縦長の箱で、窓はなく、分厚いフリスビーのようなゴムの蓋がついていた。三歳児にとって遙か上空の蓋は、誰かに抱え上げて貰わなければ触ることはおろか見ることさえ出来なかった。
大好きなアイスキャンディーのお代わりをねだる私を、母親がもう売り切れだと騙そうとしたが、中を覗かせてくれとダダをこねた想い出がある。子供同士で買い物に行ったときは、年上の子が抱き上げて中身を選ばせてくれた。
自分の自由にならない、つかの間に覗いた箱の中は銀色に輝いていた。電機冷凍庫ではなく、大きな魔法瓶だったのだ。ドライアイスの渇いた冷気は、夢を叶えてくれる魔法のランプの煙のように思えたものだ。
時が流れて、背が伸びて箱を上から覗けるようになった頃には、大きな魔法瓶の姿は消えていた。なので、私にとってはあの頃の大きさのままだ。