椰子のジュース: 冒険ガボテン島
憧れの「彼の君」は月明かりに照らされていた。
南の島の砂浜。聞こえるのは潮騒だけ。運命の出会いに、これ以上のシチュエーションがあるだろうか?
チャンスは突然訪れた。『 冒険ガボテン島』から20年、フィリピンのセブ島での出来事であった。夕食後、彼女と二人で散歩に出かけ、砂浜に腰を下ろしていたら、現地の若者が声をかけてきた。初めは、自分の腕時計と僕のを交換しないか?とか、他愛もない世間話をしていた。
やにわに、「あっちで、椰子のジュースを飲まないか?」と問われた。 否も応もなかった、それまで機会が無かったわけではないが、なんとなくやり過ごしていた。が、出会うなら今をおいて他にない気がした。
ついて行った先には彼の仲間が数人いた。予感はあったのだが、しきりに土産物を売りつけようとする。が、「椰子のジュース」は嘘ではなかった。一人の若者がするすると椰子の木に登り、実を下に放りなげた。誘った男がナタのような物で口を開け、ストローを差して手渡してくれた。
… 子供の頃、夢に描いていた味はこうだ。 当時、明治のチョコバーにココナツ入りの物があり、バターココナツというビスケットもあった。ココナツミルクという言葉も知っていた。「あの実の中にはココナツ風味の香ばしいミルクのような物が入っているに違いない」 …
さて、ストローから口の中に入ってきた味は… 違うじゃないか…
結局、貝殻細工のネックレスを、値切ったものの、当時の日本円で2000円程で買わされた。なかなか開放してくれなかったし、女連れでもあった。しかも手にはナタが…
翌日、土産物屋へ行ったら、同じものが半額以下で売っていたが、思い出の代償としては高くは無いと思った。椰子の代金は取られなかったし。もっとも、椰子の木が彼らの持ち物だったかどうかは知る由もないが・・