昭和30年代生まれに贈るオンラインマガジン
Update: april.2004
小さなスナック
僕が初めて君を見たのは〜♪ 食べ物に関する雑記です。
▼小さなスナック
作詞/牧ミエコ・作曲/今井久・唄/パープル・シャドウズ

不思議なポケット ビスケット・クッキー・サブレ

ポケットの中にはビスケットがひとつ
ポケットを叩けばクッキーがふたつ
も一つ叩けばサブレがみっつ

『ビスケット』と『クッキー』と『サブレ』。
どこがどう違うのか? 子供の頃、素朴な疑問に答えてくれる者はいなかった。 (聞きもしなかったのだが。)

さて、不思議なポケットの中身を検証してみよう。
▼『泉屋』東京店 スペシャルクッキーズ
泉屋 スペシャルクッキーズ

1.子供の見解 1969年頃の記憶

【ビスケット】
菓子メーカーの量産品。初めて食べたのは森永『マンナ』。
基本的にプレーンな味付けだが、例外的に森永の『ハーバード』はココア風味がある。 形状は厚さ3〜6mmの円か長方形がほとんどだが、シスコの『エースコイン』と前田の『クリケット』だけは異形である。 モソモソした食感で、一緒に牛乳が飲みたくなる。

【クッキー】
東京『泉屋』の缶に入った贈答品。
ビスケットと違って、色、味、形は多様。 ナッツやドライフルーツ等の使用はビスケットやサブレには見られない。 量産品では森永の『ムーンライト・クッキー』、前田?の『お汁粉クッキー』。 『トラピストクッキー』はビスケットじゃないかと思っている。

【サブレ】
観光地の土産物か、シスコの「ココナツサブレ」。
バターの風味が強く、グラニュー糖をまぶしたものもある。 土産物には具象物を模した形状が多い。 一枚ずつ包装してある場合もある。 食べると、三立の『源氏パイ』ほどではないが、散らかる。
▼マンナ(ビスケット)
1930年6月5日発売、森永製菓。
現在は紙箱入りだが、以前は筒状の包装だった。
▼マミー(ビスケット)
カバヤ。マンナ同様、現在は紙箱入りだが、以前はハトロン紙(赤い印刷)で包装してあった記憶がある。
▼チョイス・ビスケット
1952年発売、森永製菓。
▼ハーバード・クリームビスケット
1952年発売、森永製菓。
2枚の一口サイズのビスケットの間に白いバタークリームがはさんであった。ビスケットはココアとバニラの2種類が同梱。
現在は"WELL"と名前が変わり、ビスケットはココアのみ。クリームがバニラとイチゴになった。しかも、クッキーと表記されている。
▼マリー
1953年発売、森永製菓。
▼エースコイン・ビスケット
1955年発売、シスコ。(現・日清シスコ)
コイン(和同開珎等)の形のビスケット。
▼ オリーブ(ビスケット)
1956年発売、東鳩。
▼ムーンライト・クッキー
1960年発売、森永製菓。
▼ココナツサブレ
シスコ ココナツサブレ アロハ
ココナツサブレはシスコ〜♪
▼源氏パイ
1965年 発売。

2.辞書的定義  : 現在

【ビスケット】 [biscuit]
小麦粉に牛乳・卵・砂糖・バターなどを加えて一定の形に焼いた菓子。
(三省堂「大辞林 第二版」より)
語源は、ラテン語の“bis coctus”(ビス・コクトゥス/二度焼く)。
フランス語のビスキュイ“biscuit”も2度焼かれたという意味をもっている。

【クッキー】 [cookie]
小麦粉に砂糖・バター・香料などを入れて練り、天火で焼いたもの。
(三省堂「大辞林 第二版」より)
語源は、 オランダ語の「クオキエ」(小さなケーキ)。 アメリカに渡ったオランダ人が自家製の菓子をクッキーと呼んだのが始まりという。

【サブレ】[(フランス) sable] 〔砂の意〕
小麦粉・バター・卵黄・砂糖を混ぜてこね、型抜きして焼いた菓子。 さくさくした歯ざわりがする。
( 三省堂「大辞林 第二版」より)
語源は仏語の“sable”(砂をまぶした)。英語では、ショートブレッド。

海外では、ビスケット(英)、クッキー(米)、ビスキュイ(フランス)、 ビスキュイート(独)。 アメリカでは、ビスケットはやわらかい菓子パン。イギリスのビスケットに相当するものはクッキー。

日本ではビスケットとクッキーの両方の呼び名があるが、 「ビスケット類の表示に関する公正競争規約」では、下記のような表示をするように指導されている。

【ビスケット】小麦粉、糖類、油脂を主原料にして焼いたもの。
【クッキー】手づくり風の外観で、糖分、脂肪分の合計が全体の40%以上含まれるもの。

以上、製法に明確な差異は無く、呼称が伝わった経路が違うということらしい。

3.日本におけるルーツ

【ビスケット】
1855年、水戸の蘭方医柴田方庵が長崎で外国人に製法を習う。
1868年、『風月堂』が薩摩藩に東北征伐用兵糧パン(黒ゴマ入ビスケット)を納入。
1875年、米津風月堂の米津松造がビスケットを製造、販売を開始。同年、銀座・松養軒が英字ビスケット発売 。

【クッキー】
1917年、泉伊助・園子夫婦がアメリカの宣教師に作り方を習う。
1927年、『泉屋』創業。日本で初めてクッキーを販売した。「クッキーの母」として親しまれた創業者泉園子のレシピは今日まで受け継がれている。

【サブレ】
1897年頃、『豊島屋』の初代・久保田久次郎が鎌倉を訪れた外国人からビスケットをもらったのが始まり。その後、研究の末、サブレを完成させた。
当初は普通の丸い形で、初代が鶴岡八幡宮の本殿掲額の鳩と境内の鳩にちなんで、「鳩」の形にしたという。
▼量産製菓会社のビスケット
1917年 ハッピービスケット/ 明治製菓。
1920年 乳菓カルケット/中央製菓。
1923年 森永製菓がビスケットの生産開始。
1924年 三立製菓がビスケットの生産に着手。


▼量産製菓会社のクッキー
1932年 レモンクッキー/明治製菓。
1957年 伊藤製菓(現イトウ製菓)が日本初のクッキー量産化に成功。
1960年 ムーンライト・クッキー/森永製菓。


▼量産製菓会社のサブレ
発売年調査中 ココナツサブレ/シスコ

4.不思議なポケットの中身

ポケットの中にはビスケットがひとつ
ポケットを叩けばビスケットがふたつ
も一つ叩けばビスケットがみっつ

さて、ポケットの中身は果たしてビスケットだったのだろうか? 叩いたビスケットが割れて増えたという笑い話があるが、作者は実際に割れたビスケットに触発されて歌詞を思いついたのかもしれない。 手がかりは他に無いので、その前提で話を進めることにする。

まずサブレだが、この曲をよく聞いた時代(昭和40年前後)には、菓子メーカーの量産品としては出回っておらず、土産物として口にする程度だった。気軽にポケットに入れる存在ではなかったし、なにより崩れやすいので叩く気にはならないだろう。

次にクッキーだが、ビスケットと比べると小振りで堅いものが多い。ポケットの上から叩いても割れ難いし、「ビスケット類の表示に関する公正競争規約」に手作り風とあるように、表面がなめらかでない場合が多く、塵や埃がつきやすい。直にポケットに入れる気はしないだろう。

ということで、おそらくは歌詞の通りビスケットであろうと思われる。森永製菓の『マリー』あたりを想像するのだが、どうだろうか?

当時は、「そんな不思議なポケットやビスケット」が輝いて見えた時代だった。この曲を聞くと、パン屋の焼きたてのメロンパンや、駄菓子屋のハッカやニッキの匂い、ポケットの埃っぽい匂い…が甦る。今ほど豊ではないものの、なんとも言えない暖かさがある時代だった。
▼不思議なポケット
作詞・ まどみちお/作曲・渡辺茂


▼まどみちお
1909年11月16日、山口県生まれ。
北原白秋に惹かれ「コドモノクニ」に投稿し認められる。 戦後、幼年雑誌の編集に従事。

1968年、初めての詩集『てんぷらぴりぴり』を出版。以降、数々の詩集を出版。
1994年国際アンデルセン賞作家賞受賞。

代表作(童謡)
『いちねんせいになったら』
『ぞうさん』
『ドロップスのうた』
『ふしぎなポケット』
『やぎさんゆうびん』 等。

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